「まさか、あの人が辞めるとは思わなかった」
社員から突然退職の申し出を受けたとき、経営者や管理職の方から、このような言葉を聞くことがあります。
特に、真面目で仕事もきちんとこなし、周囲との大きなトラブルもなかった社員であれば、なおさらです。
しかし、本当にその退職は「突然」だったのでしょうか。
「突然」に見えるのは、退職を知った側から見たとき
退職届が提出された日は、会社にとっては明確な出来事です。
しかし、本人の中では、その何か月も前から、
「このままでいいのだろうか」
「疲れてきた・・・もう無理だ」
「上司に話しても仕方がない」
「やはり、この会社では難しいかもしれない」
といった小さな変化が積み重なっていたかもしれません。
つまり、退職という出来事は突然でも、退職に至るプロセスまで突然だったとは限らないのです。
小さな変化は、数字になる前に現れる
組織の問題を考えるとき、離職率や休職率、エンゲージメントスコアなどの数字は重要です。
しかし、数字として表れる前に、現場ではさまざまな変化が起きています。
以前より発言が少なくなった。
会議で意見を言わなくなった。
上司への相談が減った。
必要最低限の仕事しかしなくなった。
以前なら提案していた人が、何も言わなくなった。
こうした変化の一つひとつだけを見れば、大きな問題には見えないかもしれません。
しかし、その人を継続して見ていれば、
「以前と何かが違う」
という変化に気づくことがあります。
大切なのは、その変化をすぐに「やる気がない」「最近の若手は」「本人の問題だ」と評価してしまわないことです。
「なぜ、この変化が起きているのだろう」
と、一度立ち止まって考える必要があります。
「問題のある社員」を探す前に、関係性を見る
社員の行動は、その人自身の性格や能力だけで決まるものではありません。
上司との関係、仕事量、役割の曖昧さ、評価制度、職場の人間関係、将来への見通しなど、さまざまな要因との関係の中で生まれています。
例えば、以前は積極的に提案していた社員が、ある時期から何も言わなくなったとします。
本人のプライベートの悩みゆえに、意欲が低下した可能性もあります。
一方で、
「何を言っても聞いてもらえない」
「提案すると仕事だけ増える」
「失敗したときだけ責任を問われる」
といった経験を重ねた結果、「言わない」という行動を選ぶようになった可能性もあります。
同じ行動でも、その背景によって意味はまったく異なります。
退職者を引き留めることだけが離職対策ではない
特に優秀な社員が退職の意思を固めたとき、面談や待遇改善によって引き留めようとすることがあります。
もちろん、それが有効な場合もあります。
しかし、離職対策でより重要なのは、退職届が出る前の組織を見ることではないでしょうか。
なぜその人は会社を離れようと思ったのか。
それは一人だけに起きていることなのか。
同じことを感じている社員はいないか。
管理職は変化に気づけなかったのか。
社員が困ったときに声を上げられる環境だったか。
一人の退職を「その人の事情」で終わらせず、組織を理解するための情報として捉える。
そこから、次の離職を防ぐヒントが見えてくることがあります。
数字の手前で起きていることを見る
離職率が上昇してから対策を始めることもできます。
しかし、その数字が動く前から、組織の中では何かが起きています。
小さな変化を捉え、その意味を考え、必要であれば管理職自身の関わり方や組織の仕組みを修正する。
当社では、こうした「数字になる前の変化」を丁寧に見ながら、経営・人事・現場それぞれの視点をつなぎ、組織の課題を考えていきます。
「突然の退職」が続いているとしたら。
考えるべきなのは、辞めた社員だけではなく、
その人が辞めるまで、組織の中で何が起きていたのか
なのかもしれません。