問題が起きてからではなく、組織にも「健康診断」を
「特に大きな問題は起きていません」
経営者や人事の方から、そんな言葉を聞くことがあります。
確かに、休職者が急増しているわけでもない。
大量離職が起きているわけでもない。
重大なハラスメント事案が発生したわけでもない。
業績も、今のところ大きく崩れてはいない。
では、その組織は「健康」なのでしょうか。
大きな問題が表面化していないことと、組織が健康であることは、必ずしも同じではありません。
「病気ではない」と「健康である」は違う
私たちは、自分の身体について、症状が出てから初めて健康を考えるわけではありません。
特に自覚症状がなくても、健康診断を受けます。
血圧、血液検査、体重、画像検査など、さまざまな情報から身体の状態を確認します。
なぜでしょうか。
大きな問題になる前に、小さな変化を見つけるためです。
組織も、これとよく似ています。
突然、社員が辞めたように見えても、その人は半年、あるいは一年前から何らかの違和感を抱えていたのかもしれません。
ある日突然、管理職が機能しなくなったように見えても、その前から小さな問題が積み重なっていた可能性があります。
たとえば、
「最近、会議で誰も発言しなくなった」
「以前より部署間の相談が減った」
「管理職が何でも自分で抱えるようになった」
「若手から提案が出なくなった」
「優秀な社員ほど、何も言わずに辞めていく」
一つひとつは、すぐに重大な経営問題になるような出来事ではないかもしれません。
しかし、こうした小さな変化こそ、組織が発しているサインであることがあります。
数字を見る。そして、数字の向こう側を見る
組織を見るうえで、数字は重要です。
離職率、休職率、残業時間、有給休暇取得率、従業員サーベイ、業績、生産性。
こうしたデータから見えるものはたくさんあります。
しかし、数字だけでは分からないこともあります。
たとえば、離職率が低い会社が、必ずしも働きやすい会社とは限りません。
「辞めたいけれど、転職できないから残っている」という社員が多ければ、数字の上では離職率は低くなります。
逆に、離職者が一人出たとしても、その「1」という数字だけを見ていては、
その人が辞めるまでに、組織の中で何が起きていたのか
は分かりません。
数字を見ること。
そして、数字の向こう側にいる人を見ること。
組織の状態を理解するには、その両方が必要です。
「症状」が出てから「薬」を探していませんか?
組織に問題が起きると、
「管理職研修をやろう」
「1on1を導入しよう」
「エンゲージメントを上げよう」
「コミュニケーション研修をやろう」
と、すぐに解決策を探したくなるものです。
しかし、医療で考えてみてください。
患者さんが「具合が悪い」と訴えているのに、診察も検査もせず、
「では、この薬を飲んでください」
とは通常ならないでしょう。
まず、何が起きているのかを確認する。
組織も同じです。
コミュニケーション不足に見えて、実際には役割と責任が曖昧なのかもしれません。
管理職の能力不足に見えて、実際には一人の管理職に過大な責任を負わせる組織設計になっているのかもしれません。
社員の意欲低下に見えて、実際には「何を言っても経営には届かない」という経験を繰り返した結果なのかもしれません。
同じ「症状」に見えても、原因が違えば、必要な対応も違います。
だからこそ、解決策を考える前に、まず組織の状態を丁寧に見る必要があります。
組織にも「健康診断」という発想を
大きな問題が起きてから対処することも、もちろん必要です。
しかし、より大切なのは、
問題が大きくなる前に、小さな変化に気づくこと。
そして、
「今、私たちの組織では何が起きているのか」
を定期的に確認することです。
完璧な組織をつくる必要はありません。
人が集まる以上、問題は起こります。
大切なのは、問題がないことではなく、
問題の兆候に気づき、自分たちで考え、必要に応じて修正できること。
身体と同じように、組織にも定期的な「健康診断」が必要なのではないでしょうか。
健康診断の目的は、病気を探して怖がることではありません。
これからも元気に働き続けられる組織であるために、今の自分たちを知ること。
私は、そこから組織づくりが始まると考えています。