「社員を大切にする会社でありたい」
そう考える経営者や管理職は少なくないと思います。
社員の話を聴く。
働きやすい環境を整える。
困っている社員を支援する。
一人ひとりの事情にも、できる範囲で配慮する。
どれも大切なことです。
しかし、「社員を大切にする」という言葉について、一つ考えてみたいことがあります。
社員を大切にすることと、社員の希望や要求を何でも受け入れることは、同じなのでしょうか。
「話を聴く」と「要求を受け入れる」は違う
例えば、社員から、
「業務量を減らしてほしい」
「この仕事は担当したくない」
「あの人とは一緒に働きたくない」
「在宅勤務にしてほしい」
といった相談があったとします。
まず、なぜそう思っているのかを聴くことは重要です。
そこには、ご本人にしか分からない事情があるかもしれません。
本当に業務量が過剰なのかもしれません。
職場の人間関係で深刻な問題が起きているのかもしれません。
心身の不調を抱えて悩んでいる可能性もあります。
一方で、話を丁寧に聴いたからといって、本人の希望をすべて受け入れられるとは限りません。
会社には事業があります。
チームで果たさなければならない役割分担があります。
他の社員との公平性もあります。
そして、相談に来た社員本人にも担っている役割と責任があります。
「あなたの話を大切に聴くこと」と、「あなたの希望をすべて受け入れること」は別のことです。
「NO」と言わないことが、「優しさ」なのか?
社員の希望に対して、
「それはできません」
と伝えることに抵抗を感じる管理職もいるかもしれません。
関係が悪くなるのではないか。
仕事へのモチベーションが下がるのではないか。
「部下を大切にしない管理職」と思われるのではないか。
そう考えて、曖昧な返事をしたり、無理な要求まで引き受けたりする。
しかし、その結果、別の社員に負担が集中したらどうでしょう。
一人の社員の仕事を減らした結果、同僚の仕事が増える。
一人だけ例外的な扱いを続けた結果、周囲が不公平感を持つ。
管理職自身がすべてを引き受け、疲弊する。
一人に配慮したつもりの善意が、別の誰かを苦しめることもあります。
だからこそ、時には「できない」とハッキリ伝えることも必要です。
ただし、大切なのは、
「ダメだからダメ」
で終わらせないことです。
なぜできないのかを説明し、そのうえで何ならできるのかを一緒に考える。
それも、社員・部下を大切にすることの一つではないでしょうか。
「配慮すること」と「役割・責任をなくすこと」は同じではない
社員が困っているとき、必要な配慮をすることは重要です。
しかし、配慮することと、その人が担う役割や責任をすべて曖昧にすることは同じではありません。
「今は体調が悪いから、業務量を一時的に調整しよう」
ということもあれば、
「この業務は難しいので、別の方法を考えよう」
ということもあるでしょう。
一方で、
「この役割には、この仕事が必要です」
「ここまでは、あなたに担ってもらう必要があります」
と伝えなければならないこともあります。
何を配慮するのか。
何を変更できるのか。
何は変更できないのか。
本人に何を期待しているのか。
境界・役割・責任が明確であることは、冷たさではありません。
むしろ、自分に何が求められているのか分からない状態の方が、社員にとって不安なこともあります。
「社員を大切にする」の主語は、一人だけではない
もう一つ考えたいのは、
「社員を大切にする」と言うときの「社員」とは誰なのか
ということです。
目の前で相談している一人だけでしょうか。
その人と一緒に働いている同僚も社員です。
そのチームを支えている管理職も社員です。
別の部署で同じルールのもとで働いている人たちも社員です。
一人の要望に応えることが、他の社員へどのような影響を与えるのか。
そこまで考える必要があります。
社員を大切にすることとは、単に要望を叶えるだけではなく、組織の中にいる人たち全体を見ながら、一人ひとりを尊重することなのではないでしょうか。
「厳しさ」と「大切にすること」も両立できる
必要なフィードバックをする。
改善してほしいことを伝える。
果たしてほしい役割を明確にする。
場合によっては、本人にとって耳の痛いことを伝える。
こうしたことは、ときに「厳しい」と受け取られるかもしれません。
しかし、
問題があることを知りながら何も伝えない。
曖昧なまま評価を下げる。
ある日突然、「期待した水準に達していない」と伝える。
その方が、本当に社員を大切にしていると言えるでしょうか。
相手が成長し、仕事を続けていくために必要なことなら、誠実に伝える。
大切にすることと、耳の痛いことを伝えることは、両立できます。
「社員を大切にする」とは何だろうか?
社員の話を聞く。
事情を理解する。
必要な配慮をする。
できることを考える。
同時に、できないことは理由とともに伝える。
会社と本人、それぞれの役割と責任を明確にする。
そして、目の前の一人だけではなく、その判断が周囲の社員や組織全体に与える影響も考える。
当社では、社員を大切にすることを、単に「社員の希望に応えること」とは考えていません。
相手を一人の個人として尊重し、必要なことを説明し、互いの役割と責任を明確にしながら、できることを一緒に考える。
それもまた、「社員を大切にする」ということではないでしょうか。
「社員を大切にする会社でありたい」
そう考えるとき、一度問い直してみてはいかがでしょうか。
「私たちは社員を大切にしているのか。それとも、社員に嫌われないようにしているだけなのか」と。