第8回:「何でも相談してください」が、相談しにくい職場をつくることもある?!

「困ったことがあれば、何でも相談してください」

部下にそう伝えている管理職は少なくないと思います。

会社としても、

1on1を実施している。

人事に相談窓口がある。

産業医や産業保健スタッフに相談できる体制がある。

ハラスメント相談窓口も設置している。

さまざまな仕組みを整え、

「社員が相談できる環境をつくっている」

と考えているかもしれません。

もちろん、相談する場所を用意することは重要です。

しかし、

「相談できる仕組みがあること」と、「社員が実際に相談できること」は、同じなのでしょうか。

「何でも相談して」と言われても、相談できない

社員の側から見ると、相談窓口を利用することにはさまざまな不安があります。

「こんなことを相談したら、能力がないと評価に影響するのではないか」

「上司との関係が悪くならないか」

「相談した内容が、どこまで会社に伝わるのだろう」

「言ったところで、何も変わらないのではないか」

「忙しそうだから、こんなことで時間を取らせるのは申し訳ない」

だから、

「何でも相談してください」

と言われただけで、安心して相談できるとは限りません。

むしろ、「何でも」という言葉が広すぎて、

「何を、どこまで相談していいのか分からない」

ということさえあります。

御社の相談窓口は、「社員から見て」安心して相談できる場所であるか?

人事相談窓口。

ハラスメント相談窓口。

内部通報窓口。

産業保健スタッフとの面談。

こうした仕組みは、社員を守るうえで重要です。

しかし、制度を設置しただけで、

「相談できる会社になった」

とは限りません。

例えば、過去に相談した社員が、

「(社員の承諾なしに)相談した内容を上司が知っていてショックだった」

と感じていたらどうでしょう。

あるいは、

「相談した内容が、思っていなかった範囲まで共有されていた」

というある社員の経験が職場で知られていたらどうでしょう。

社員は、会社が掲げている制度だけを見ているわけではありません。

実際に相談した人が、「(相談後に)どのように扱われたのか」「相談した情報が誰に、どのように共有されているのか」

も見ています。

信頼は「相談してください」という言葉だけでは生まれない

相談できる関係には、信頼が必要です。

しかし、信頼は、

「私は部下を大切にしています」

「何でも話してください」

と言えば生まれるものではありません。

日頃、話を最後まで聞いてくれるか。

意見が違っても、すぐに否定しないか。

約束したことを守るってくれるか。

相談した内容を必要以上に他者へ話さないか。

できないことは、「できない」と説明するか。

困ったときに、必要な人や専門家につないでくれるか。

こうした日々の小さな経験の積み重ねから、

「この人なら話しても大丈夫かもしれない」

という感覚が生まれます。

信頼は、言葉で要求するものではなく、日々の関わりの中でつくられていくものです。

「秘密にします」と約束できないこともある

相談を受ける側には、もう一つ重要なことがあります。

それは、自分ができることと、できないことを明確にすることです。

例えば、部下から深刻なハラスメントや安全に関わる問題について相談された場合、管理職だけで抱え込むことが適切ではないケースがあります。

それらは、人事や会社として対応しなければならないこともあります。

そのようなとき、

「誰にも言わないから、何でも話して」

と安易に約束してしまうと、後で必要な情報共有をした際に、

「秘密にすると言ったのに。。。」

と部下の信頼を損なう可能性があります。

だからこそ、

「必要があれば人事に相談することがある」

「その場合もできるだけ、あなたの意向を尊重しながら進めたい」

など、相談を受ける側の役割や情報共有の範囲を、その時点で可能な限り明確にすることが大切です。

「相談しやすさ」と「何でも許される」は違う

相談しやすい職場というと、

「優しい職場」

「何を言っても受け入れてくれる職場」

をイメージすることがあります。

しかし、相談しやすいことと、何でも要求が通ることは「別物」です。

会社としてできることもあれば、できないこともあります。

社員に配慮することと、組織として必要なルールや責任を曖昧にすることも違います。

むしろ、

何を相談できるのか。

誰が何をするのか。

どこまで情報が共有されるのか。

会社として、管理職として何ができて、何ができないのか。

こうした境界・役割・責任が分かることも、安心して相談するためには重要です。

「相談がない」ことは、「問題がない」ことではない

管理職や人事から、

「特に相談は上がってきていません」

という言葉を聞くことがあります。

本当に問題がない場合もあります。

しかし、

「相談しても変わらない」

「相談すると不利益がありそうだ」

「誰に話せばよいか分からない」

「どこまで話が広がるか分からない」

そう思われているために、相談がない可能性もあります。

つまり、

「相談がない=問題がない」とは限りません。

相談件数という数字だけでなく、

「社員は、この組織で困ったときに声を上げられるだろうか」

という視点から見る必要があります。

「相談窓口」から「相談できる信頼関係」へ

相談窓口や1on1などの制度を整えることは大切です。

しかし、それだけでは十分ではありません。

制度があり、

役割や情報の扱いが明確であり、

日々の関わりの中で信頼が積み重なっている。

そのとき初めて、

「困ったときに相談しても大丈夫」

と思える環境に近づいていきます。

当社では、相談制度の有無だけではなく、その制度が実際にどのように運用され、社員からどのように受け止められているのかまで見ることを大切にしています。

「何でも相談してください」

そう伝える前に、一度考えてみてはいかがでしょうか。

「この職場では、社員が本当に『相談しても大丈夫』と思える経験が積み重なっているだろうか」と。

上部へスクロール