ある会社で社員が病気により休職となる。
会社では、人事部と管理職との連携、産業医との面談、休職手続き、復職支援など、さまざまな対応が必要になります。
もちろん、本人への適切な支援は欠かせません。
しかし、ある部署で「メンタルヘルス不調者」「精神疾患を抱えた社員」が続いたとき、それを一人ひとりの**「個人の問題」**として処理するだけで十分でしょうか。
一人なら「個人の問題」に見える
一人の社員がメンタル不調になったとします。
その背景には、本人の性格や健康状態、家庭環境、仕事上の出来事、人間関係など、さまざまな要因が考えられます。
実際、メンタル不調(精神疾患)は、一つの原因だけで説明できるものではありません。
ですから、一人のケースだけを見て、
「仕事が原因だ」
あるいは反対に、
「本人の問題だ」
と単純に結論づけることはできません。
では、同じ部署から二人、三人と不調者が続いたらどうでしょうか。。。
そこで必要になるのが、
「これは本当に、一人ひとりの”個人の問題”として考えるだけでよいのだろうか」
という問いです。
「誰が休んだか」から「どこで何が起きているか」へ
組織を見るときに重要なのは、一人ひとりのケースだけではなく、全体のパターンを見ることです。
特定の部署に休職者が集中していないか。
退職者も同じ部署から出ていないか。
残業時間はどう変化しているか。
管理職が交代してから何か変化していないか。
業務量や人員配置は適切か。
社員から同じような相談が繰り返されていないか。
一つひとつは別々の出来事に見えても、並べてみることで、共通する背景が見えてくることがあります。
一人の休職を「点」として見るだけでは分からなかったことが、複数の情報をつなぐことで「線」として見えてくるのです。
個人への対応だけでは、同じことが繰り返される
メンタル不調者が出るたびに、
休職手続きをする。
産業医につなぐ。
復職支援をする。
そして、その社員が復職すれば「対応終了」。
もちろん、これらはすべて必要な対応です。
しかし、もし不調の背景に職場環境やマネジメント、業務の仕組みなどの問題があり、それが残されたままだとしたら、どうなるでしょう?
同じ部署から、また別の社員が不調になる可能性があります。
例えば、目の前で水が漏れるたびに床を拭くことは必要です。
しかし、それだけでは「水漏れ」は止まりません。
同時に、
「どこから水が漏れているのか」
を探す必要があります。
メンタルヘルス対策も同様です。
不調になった社員を適切に支援すると同時に、なぜここで不調が起きているのかを組織側から見る視点が必要です。
では、管理職が悪いのか?
ここでもう一つ、気をつけたいことがあります。
「この部署はメンタル不調者が多い」
という事実が分かると、
「では、その部署の管理職に問題があるのではないか?」
と考えたくなることです。
もちろん、管理職のマネジメントが影響している場合もあります。
しかし、今度は管理職個人を「問題のある人」にしてしまえば、メンタルに不調を抱えた社員個人に原因を求めたときと同じことが起こります。
もしかしたら・・・
その管理職自身が、過剰な業務量を抱えているかもしれません。
慢性的な人員不足の中で、無理な成果を求められているかもしれません。
部下のマネジメントについて、十分な教育や支援を受けていないかもしれません。
経営から求められることと、現場の実態との間で「板挟み」になっている可能性もあります。
だからこそ大切なのは、
「誰が悪いのか」ではなく、「この組織で何が起きているのか」
という問いです。
「メンタル不調者」という数字の向こう側を見る
経営会議では、
「今年度の休職者は〇名、うち、メンタル不調による休職者は○名」
「休職率は○%」
といった形で報告されることがあります。
組織全体を把握するために、数字はもちろん必要です。
しかし、その「1名」の数字の向こう側には、「一人の人間」がいます。
そして、その人が休職に至るまでには、仕事、上司、同僚、職場環境、プライベートなどで、さまざまな出来事があったはずです。
数字を見ることと、人を見ることは、どちらか一方を選ぶものではありません。
数字から組織全体を捉えながら、その数字の向こう側で何が起きているのかを見る。
その両方が必要なのだと思います。
個人・人事・現場・経営の情報をつなぐ
メンタルヘルスの問題は、人事や産業保健スタッフ(産業医、保健師、看護師、心理職など)だけの問題でも、現場だけの問題でもありません。
現場には、現場にしか見えないことがあります。
人事には、複数の部署を横断しているからこそ得られる情報があります。
産業保健スタッフには、社員の「心身の健康」という視点から見える変化があります。
そして経営には、事業や組織全体を見る視点と、貴重なリソースを最適化する権限があります。
ところが、それぞれが持っている情報が別々の場所に存在し、つながっていないことがあります。
当社では、これらの情報をつなぎ、個人に起きていることを、組織全体の文脈の中で捉え直すことを大切にしています。
「メンタル不調者」が増えたとき。
「最近、メンタル不調者が多い」で終わらせるのか。
それとも、
「この人たちに何が起きたのか。そして、この組織で何が起きているのか」
と問い直すのか。
そこに、個人への対応だけでは見えてこなかった組織課題を発見する手がかりがあるのではないでしょうか。