専門職を採ったのに、なぜ「ジェネラリストの要件」まで求めるのか?(第22回)

「専門性の高い人を採用したのに、思ったほど活躍してくれない。」

そう感じたとき、会社は何を基準に、その人を評価しているでしょうか。
採用時に期待した専門性と、入社後に求めている仕事に、ずれがないか確かめたいところです。

オリンピックの水泳競技を例に考えてみましょう。
200m自由形で金メダルを獲得した選手を迎えたとします。

その選手に、バタフライでも、背泳ぎでも、同じように金メダルを求めるでしょうか。
同じ水泳でも、必要な技術や練習は異なります。

ところが職場では、「専門家なのだから、このくらいもできるはずだ」という期待が、いつの間にか広がることがあります。

ある分野で高い専門性を持つことは、隣接するすべての仕事に精通していることを意味しません。

たとえば、人事の中にも、採用、給与計算、労務、制度設計、人材育成など、異なる知識や経験を要する仕事があります。
労務対応の経験が豊富な人が、給与計算システムの導入にも、初めから同じ水準で対応できるとは限りません。

技術職や情報システムの仕事も同様です。
「技術に詳しい」「ITに強い」という一言では、その人の専門領域も、会社が任せたい仕事も、十分には分かりません。

もちろん、専門職にも、他部署と協力し、必要な知識を学び、担当する仕事に責任を持つことは求められます。
専門外だからといって、何もしなくてよいという話ではありません。

ただし、新しく求める仕事があるなら、何を、どの水準まで期待するのかを共有し、習得に必要な時間や支援を考える必要があります。

採用時には「専門性を生かしてほしい」と伝えていたのに、入社後は担当範囲が曖昧なまま、さまざまな仕事が集まってくる。
本来の専門領域の課題に取り組む時間が減っても、当初期待された成果は変わらず求められる。

これでは、本人にとっても、会社にとっても、何を優先すべきかが分かりにくくなります。

評価の段階で、別の物差しが持ち込まれる場合もあります。

専門的な課題を解決するために採用したのに、評価されるのは、幅広い部署の経験や、管理している部下の人数。
専門領域での貢献よりも、「何でも引き受ける」「社内でうまく立ち回る」ことが重視される。

幅広い業務経験や組織運営の力が必要な役割もあります。
ただ、その要件を、専門職にも一律に当てはめてよいのかは、確かめる必要があります。

人と仕事、組織との適合に関する研究でも、適合は一つの側面だけで捉えられていません。
会社の価値観に合うかという問いと、任せる仕事に能力が合っているかという問いは、分けて考える必要があります。

「うちの会社で働く以上、みんなと同じ基準で評価する」という説明だけでは、専門職の貢献を捉えきれないことがあります。
共通して求める行動と、それぞれの役割や専門性に応じて評価する成果を整理する必要があります。

まず、採用した目的に立ち返ることです。

どの課題を解決するために、その専門性を求めたのか。
現在の仕事の配分は、その目的に合っているか。
専門性を発揮するための権限や情報、協力体制は整っているか。
評価項目は、期待する貢献を捉えられるものになっているか。

たとえば、労務対応を任せるなら、対応件数だけでなく、対応の質や、再発防止に向けた改善も検討の対象になるでしょう。
専門外の仕事も任せるなら、当初の仕事との優先順位や、期待する成果を見直すことが必要です。

「優秀な人を採ったはずだったのに、ハズレだった」で振り返りを終える前に、その人に何を任せ、何をもって成果とするのかを確かめる。

専門職を採用することと、その専門性が活きる仕事を設計することは、一続きの経営課題です。採用した人の能力を問うときには、その力を活かす役割と評価を用意できているかも、併せて検討すべきではないでしょうか。

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参考文献
Kristof-Brown, A. L., Zimmerman, R. D., & Johnson, E. C. (2005). Consequences of individuals’ fit at work: A meta-analysis of person–job, person–organization, person–group, and person–supervisor fit. Personnel Psychology, 58(2), 281–342.
https://doi.org/10.1111/j.1744-6570.2005.00672.x

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