「問題社員」を辞めさせれば、問題は解決するのか?(第18回)

「あの社員さえいなくなれば、職場は落ち着くのに……。」

職場でトラブルが続くと、問題の原因を特定の一人に求めたくなることがあるかもしれません。

周囲との衝突が多い。
指示した仕事が進まない。
何度伝えても、期待する行動に変わらない。

一緒に働く社員や管理職が疲弊しているなら、その状況への対応は必要です。
ただ、「問題社員」という言葉で一人を捉えたとき、見えなくなるものがないかも確かめたいところです。

その人の問題行動と、その行動が起きている職場の条件を、分けて確認しているでしょうか。

たとえば、ある社員が上司の指示に従わないとします。
上司から見れば、「指示を聞かない、困った社員」です。

しかし、本人に話を聞くと、別の管理職から相反する指示を受けていたことが分かるかもしれません。
優先順位を確認しても決めてもらえず、どちらを選んでも注意される状況だったとしたら、指揮系統や判断の仕組みも見直す必要があります。

反対に、役割も指示も明確で、必要な説明や支援をしていても、本人が業務を拒んでいる場合もあるでしょう。
外から見える「指示に従わない」という行動が同じでも、その背景によって確認すべき項目や必要な対応は異なります。

当事者によって、問題の捉え方が違うこともあります。

会社側は「必要な指導」と考えている。
本人は「不当な扱いを受けている」と感じている。
周囲の社員は、両者のやり取りによって仕事が止まることに困っている。

そこで、どちらか一方の説明だけで結論を出すと、必要な対応を見誤るおそれがあります。

確認したいのは、いつ、どこで、誰が、何をしたのか、という事実です。
どのような指示や説明があり、それに対して何が起きたのか。
本人と周囲には、どのような影響が出ているのか。

具体的な行動と経緯を確かめることで、本人に改善を求める点と、会社側が修正すべき点を整理しやすくなります。

組織行動の研究でも、人の行動を理解する際には、その人が置かれている状況や制約を考慮する重要性が論じられています。
本人の特性だけで説明しようとせず、仕事の条件にも目を向けるという視点です。

もっとも、背景を理解することは、組織や他の社員にとって有害な行動を容認することではありません。
暴言や威圧などで周囲が傷ついている場合には、その行動を止め、影響を受けている人を守る対応が必要です。

そのうえで、本人には何をやめ、どのような行動に変えてほしいのかを具体的に伝える。
同時に、業務量、役割分担、指示の出し方、相談後の対応などに問題がなかったかも確認する。

個人への対応と、組織の見直しは、両方進めることができます。

では、本人が職場を離れた場合はどうでしょうか。

一時的に衝突がなくなっても、曖昧な役割分担や矛盾する指示が残っていれば、次に入った人が同じところでつまずく可能性があります。
周囲が無理を引き受けることで、問題が見えなくなる場合もあるでしょう。

退職によって「職場が静かになった」ことと、「問題の原因が解消された」ことは、同じとは限りません。

今回の問題は、どのような条件のもとで起きたのか。
もっと早く把握し、対応できる場面はなかったか。
同じことを繰り返さないために、何を変えるのか。

そこまで振り返って初めて、今回の経験を組織の改善につなげられます。

「誰に問題があるか」を判断する前に、「何が起きているか」を確かめる。個人への適切な対応と、再発を防ぐ組織づくりは、そこから始まると考えます。

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参考文献
Johns, G. (2006). The essential impact of context on organizational behavior. Academy of Management Review, 31(2), 386–408.
https://doi.org/10.5465/amr.2006.20208687

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