ハラスメント研修をしても、なぜ職場は変わらないのか?(第21回)

「毎年、ハラスメント研修を実施しています。」

問題が起きた職場で、そう説明されることがあります。
研修の受講記録もあり、確認テストも実施している。
それでも、職場では同じような言動が繰り返される。

そのとき、さらに研修を増やす前に、確かめたいことがあります。

研修で伝えたことを、職場で実行できる仕組みになっているでしょうか。
また、経営層からの「組織として、ハラスメントは一切認めない」という強いメッセージは、社員に伝わっているのでしょうか。

研修は、問題となる言動を知り、共通の基準を持つための機会です。
ただ、知識を得たことと、日々の行動が変わったことは、分けて確認する必要があります。

たとえば、管理職が「人格を否定する言い方はいけない」と学んだとします。

しかし、本人は「自分は仕事の指導をしているだけ」と考えている。
部下に繰り返している言葉が、研修で扱われた問題と結びついていない。

この場合、一般的な事例をもう一度聞くだけでは、自分の行動を見直すところまで届かないかもしれません。

必要なのは、実際の言動を具体的に振り返る機会です。例えば、

「先ほどの『そんなこともできないのか』という言葉では、修正すべき点が伝わりません。どの作業を、どう改善してほしかったのでしょうか。それを伝えるには、どのような言い方ができると思いますか。」

研修の場でも、「あなたなら、どのように指導しますか」「普段は、どのように伝えていますか」と問いかければ、知識を自分の行動に結びつけて考える機会になります。

本人や周囲の安全に配慮しながら、問題となる言動を放置せず、できるだけ早く具体的に伝える。
そして、代わりにどう関わるかを練習し、その後の行動を確認する。

知識と実際の仕事をつなぐ支援が必要です。

研修で学んだ内容を仕事に生かすことは、「研修転移」と呼ばれます。研修転移に関する研究でも、学習者の特性や意欲に加え、職場の支援的な環境との関連が示されています。

では、その職場では、何が評価されているでしょうか。

研修では「相手を尊重する」と伝えながら、現場では「数字さえ出せばよい」と扱われている。
周囲への威圧的な言動があっても、成果を上げる管理職だからと見過ごされる。

それでは、社員に届くメッセージとは一致しません。
研修の説明より、実際に誰が評価され、どの行動が容認されているかが、職場の判断基準になってしまうおそれがあります。

相談窓口の仕組みも同様です。

社内・社外に相談窓口があっても、相談したことで自分の立場が悪くなるのではないかと感じる。
人事考課に不利な影響が出るのではないか、ハラスメントがさらにエスカレートするのではないかと不安になる。
勇気を出して相談しても、その後にどのような事実確認や対応が行われているのか分からない。

その状況で社員に「早めに相談しましょう」と伝えるだけでは、相談しやすい職場環境には近づけません。

相談したことを理由に不利益を受けないことや、関係者のプライバシーを守ることを、方針だけでなく実際の対応で示す必要があります。
また、共有できる情報の範囲に配慮しながら、相談者に今後の進め方や組織としての対応状況進捗を説明することも大切です。

問題を起こした本人への働きかけに加えて、被害者へのケア、周囲が兆候を把握したときにどう動くか、誰が事実を確認し、必要な対応を決めるかまで、具体的にしておく必要があります。

管理職にとっても、相談できる相手は必要です。
指導に困ったときや、業務量の調整が自分の権限では難しいときに、人事や上位の管理職が対応を一緒に考える。
そうした支援を、個人任せにしないことです。

研修後に確認したいのは、受講率や感想だけではありません。

問題となっていた言動は変わったか。
相談後に必要な対応が取られているか。
同じ問題を繰り返す仕事の進め方や評価の仕組みは残っていないか。

なお、相談件数が減ったという数字だけでも、改善したとは判断できません。
相談しやすくなった結果、相談件数が一時的に増えることも考えられます。

研修を選ぶ前に、その職場で何が起き、何が行動の改善を妨げているかを確かめる。
その結果に応じて、研修、個別の指導、業務や制度の見直しを組み合わせることが大切です。

当社では、研修を「実施した」で終わらせず、職場で何が変わったかまで確かめることを重視しています。
研修と、その後の実践・検証を一体の取り組みとして考え、組織の状況に応じた支援をご提案したいと思います。

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参考文献・資料
Blume, B. D., Ford, J. K., Baldwin, T. T., & Huang, J. L. (2010). Transfer of training: A meta-analytic review. Journal of Management, 36(4), 1065–1105.
https://doi.org/10.1177/0149206309352880

厚生労働省「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」(令和2年厚生労働省告示第5号)
厚生労働省掲載ページ

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