「経験も実績もあった。即戦力として期待して採用したのに、1年もたたずに辞めてしまった。」
そんなとき、会社は採用時の見極めを振り返るでしょう。
本人の能力が足りなかったのか。社風に合わなかったのか。期待が高すぎたのか。
採用の判断を検証することは必要です。
ただ、もう一つ確かめたいことがあります。
その人が力を発揮するために必要な情報や職場環境を、会社は用意していたでしょうか。
中途採用者には、仕事の経験があります。
しかし、転職先の会社で働くのは初めてです。
何を自分で決めてよいのか。
何を優先すると評価されるのか。
これらは、専門知識や経験が豊富でも、入社しただけで分かるものではありません。
たとえば、前職では担当者の裁量で進めていた仕事に、この会社では事前の根回しが必要だったとします。
その説明がないまま仕事を任されれば、本人は経験に基づいて動くでしょう。
ところが、周囲からは「勝手に進める人」と受け止められる。
次から慎重に確認すると、今度は「経験者なのに、いちいち聞いてくる」と言われる。
本人にとっては、何をすればよいのか分からなくなります。
周囲には、「期待したほどではなかった」という評価が残るかもしれません。
ここで起きているのは、能力だけの問題でしょうか。
判断の基準が共有されていないことも、確かめる必要があります。
中途採用者の受け入れ支援は、「オンボーディング」と呼ばれます。
就業規則や給与、福利厚生の説明もその一部ですが、実際に仕事を進められるようになるまでを支えることが重要です。
新しく組織に入った人の適応に関する研究では、役割が明確であること、仕事を遂行できるという感覚、周囲に受け入れられているという感覚が、仕事への満足感や定着に関わる指標と関連することが示されています。
経験者にも、その会社で力を発揮するための土台が必要だと考えられます。
もちろん、本人にも、分からないことを尋ね、新しい環境に適応する積極的な姿勢は求められます。
会社がすべてを先回りして教え切ることもできません。
だからこそ、入社前後に何を確認し合うかを決めておくことが大切です。
まず、任せる仕事と期待する成果を具体的にすること。
「経験を生かしてほしい」だけでは、本人と上司が別の成果を思い描いている可能性があります。
次に、仕事を進めるためのつながりをつくること。
直属の上司に加え、関係部署の担当者や、実務上の相談相手を紹介する。社内の事情に詳しい人との接点も役立ちます。
そして、一定の期間ごとに、期待と現実のずれを確かめることです。
「困ったことはありませんか」と尋ねるだけでは、本人も答えにくいかもしれません。
「判断に迷った場面はありましたか」
「誰に確認すればよいか、分からなかったことはありますか」
そう聞けば、仕事を進めるうえでの障害を具体的に捉えやすくなります。
さらに、「改善してほしい」と採用した人に対して、従来のやり方への同化だけを求めていないかも確認したいところです。
新しい人の戸惑いには、既存の社員が慣れて見えなくなっている問題が含まれているかもしれません。
早期離職の理由は、一つとは限りません。
受け入れを整えれば、必ず定着するとも言えません。
それでも、「うちの企業風土に合わなかったね」で振り返りを終える前に、採用時の説明、任せ方、相談の仕組みを見直すことはできます。
「即戦力」とは、説明や支援がなくても働ける人のことなのでしょうか。
次に経験者を迎えるときには、その人に何を期待するかと併せて、その期待に応えられる環境をどう用意するかも、考える必要があるのではないでしょうか。
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参考文献
Bauer, T. N., Bodner, T., Erdogan, B., Truxillo, D. M., & Tucker, J. S. (2007). Newcomer adjustment during organizational socialization: A meta-analytic review of antecedents, outcomes, and methods. Journal of Applied Psychology, 92(3), 707–721.
https://doi.org/10.1037/0021-9010.92.3.707